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2010年10月 アーカイブ

免疫過程としての睡眠

睡眠が生体防御に役立つという古くからの考えが、免疫科学の面から新しく見直されています。


つまり、睡眠は免疫増強過程である、という新説です。


アメリカの生理学者ジェームス・クリュガー博士は、長年にわたって「S」という睡眠物質を探してきました。


そして、ようやく1984年にその本体を突き止めました。


予想に反して、その物質は免疫増強物質であり、同時に発熱物質でもあるムラミルペプチドでした。


ムラミルペプチドは、細菌の細胞壁を構成する物質です。


こんな異物が、深いノンレム睡眠を誘発するという奇怪な事実から、話が急展開を遂げてきたものです。


それによると、覚醒時に腸内細菌や食物から取り込まれたムラミルペプチドが体内でふえると、これが一種のビタミンとしてはたらいて、深いノンレム睡眠を誘発する物質をいくつも体内に放出させるのです。


それらの物質が脳に作用した結果、深い眠りがひきおこされ、覚醒中に低下した生体防御機能が回復することになります。


それゆえ、細菌感染で発熱をおこしたようなばあいにも、ノンレム睡眠がおこりやすくなり、結果として健康回復を促進するわけです。


この説にはまだいくつかの間題は残されているにせよ、睡眠の役割が新しい発想で説明されています。


ムラミルペプチドにかぎらず、最近さまざまな睡眠物質をめぐって研究がめざましく進展しているので、睡眠機構を解く新しい手がかりが得られるのではないかという期待が高まってきました。

睡眠プログラムがあるから眠るのか

睡眠は本能行動のひとつです。


だから、教わらなくても、私たちは自然に眠れるわけです。


食欲や性欲と同様に、本能はその行動に対する強い欲求と、それが満たされたときに感じる喜びとを、自動的に与えています。


行為にはそれなりの代価が支払われるわけです。


睡眠も同様で、いつもの場所で専用の寝床に入るとき、私たちは知らず知らずのうちに、喜ばしい気分に浸れることになります。


眠れば孤独な無防備状態になりますから、不安を感じてもよいはずですが、ふつう私たちは就眠するとき、一日の労苦から解放され、深い安堵の念を抱きながら、静かに横たわることができます。


これは、本能がちゃんと報酬をくれるからです。


眠るためには、決った寝場所が必要となります。


寝室や羽毛 布団のような寝具があるのは、文明人だけではありません。


自分専用のねぐらをもっていて、そこでまとまった長さの休息を取るという習慣は、ほとんどの動物に共通しています。


道具を使えない動物ですら、ねぐらに関しては、もっとも安全であるように慎重に選び、もっとも快適であるように巧妙に設計しています。


これも多くは、内蔵された本能のプログラムのおかげで、教わらなくてもできるようになっています。

生物リズムとしての睡眠

本能のプログラムの現れとして、睡眠が生物リズムに依存していることもあげられます。


眠ろうと眠るまいと、眠気は体内にセットされた時計仕掛けによって駆動されます。


海外旅行で味わう時差ぼけは体内の「生物時計」の時刻と現地の時刻とがずれたためにおこる現象です。


ほとんどすべての生き物は、活動と休息の「生物リズム」をもっています。


このリズムは地表の24時間の日周期に合せることのできるように、本能がセットしてくれた生まれつきのものです。


スイスの睡眠研究者アレクサンダー・ボルベイ博士は、睡眠調節の二大要素として、「生物リズム」と「先行する覚醒量」とを組みこんだ数学モデル(二過程モデル)をつくりました。


睡眠は、羽毛 ふとんや生物リズムの影響によって周期的に変化する量Cと、覚醒量に依存してふえる睡眠欲求量Sとの二つの過程で調節されている、と考えるものです。


このモデルは、単純な前提を使いながら、正常な成人の単相性の睡眠-覚醒リズムをうまく説明できる
ばかりでなく、パラメーターを変えることによって、昼寝のばあいや欝病のような不眠のばあい、あるいは動物の多相性の睡眠など、現象をよく説明できるので、高い評価が与えられています。

無用の長物としての睡眠

回復説に真っ向から挑戦して、睡眠不動化説を提唱したのが、メディスです。


睡眠不動化説というのは、ウェブの分類に従えば、いくつかの説を組合せたものになりますが、睡眠学説のなかでは「過激な」理論といえまもっともしょう。


メディスは、一日一時間足らずの眠りで長年健康に生活している人たちの例をあげながら、睡眠の役割は疲労回復にはないと断定し、やがて文明人は睡眠なしに生きることも可能だ、と推論しているのです。


睡眠不動化説によれば、睡眠とは動物が外部環境に適応して生存をはかるために、もっとも有効な手段として開発した技術なのですが、本来はエネルギーの消耗を避け、外敵に見つかることなく、静かに安全に時をすごすために、生物時計を組みこんで、進化の過程で脳に内蔵した本能である、ということになります。


しかし、眠りが生存のために不可欠の役割を果たしたのは、原始人の時代でした。


羽毛 フトンで眠る現代の人類にとっては、睡眠はいまや進化の遺物でしかありません。


私たちが眠るのは、古くからの睡眠本能が残っているからにすぎないのだ、ということになります。


したがって、この無用の本能を退化させて、いずれ眠らなくてもよいようになれるだろう、というわけです。


とくに、レム睡眠は有害無益ないしは無用の長物であって、爬虫類から受け継いだ欠陥技術だ、という極論になります。


もちろん、回復機能に関しては覚醒中もじゅうぶんに実現可能だ、と主張するわけです。


ノンレム睡眠はレム睡眠の改良型ではありますが、無用とみなせる点は同様なのです。

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